ifs未来研究所所長 川島蓉子Interview

 

ifs未来研究所所長 川島蓉子

 

売るための戦略とは何か?

ファッションビジネスの 展望と次世代への期待

 アパレル、家電、インテリア、車など様々な業界のブランディングやデザイン開発を手掛けるifs未来研究所所長の川島蓉子氏。日本におけるファッション市場の現状や、近年の消費者の動向から若きデザイナーたちがビジネスとして意識しておくべきことは何かお伺いしました

 

川島蓉子 / Yoko Kawashima

早稲田大学商学部卒業。文化服装学院マーチャンダイジング科修了。1984年、伊藤忠ファッションシステム株式会社に入社し、2013年にifs未来研究所所長に就任。ファッションの視点で消費者や市場の動向を分析し、企業とブランド開発などのプロジェクトを行う。著書に『ビームス戦略』(PHP研究所)、『伊勢丹な人々』 『イッセイミヤケのルール』(ともに日本経済新聞出版社)、『エスプリ思考』(新潮社)など多数。

  

 

 

—ファッション業界を含め、日本のマーケットは全体的にどのような現状にあると感じていますか?

 「ファッション業界だけでなく、家電や自動車など様々な業界の動向を分析していますが、共通して感じるのは、企業の本質が問われる時代にあるということです。お客さんは、ブランドの理念や哲学を見極めて消費行動を起こしています。企業がその辺りを意識し、戦略を立ててブランディングしているのか、伝えるだけじゃなく、伝わるところまで浸透させているのかが重要です。多くの会社が企業理念を作っていますが、ほとんど形骸化していて、誰も知らないような状況が多いです。エルメスの場合、“遺言なき相続”という言葉で表現しているのですが、企業理念も企業史も残さないことが決まりになっています。つまり、色々な言葉で語り継いで浸透させるには、スタッフや職人がその意味を理解していなければできません。トップがはっきりとした理念や志をもっていれば、それが社員に伝わり、ひいてはお客さんにも伝わります。当たり前の話ですが意外と難しく、ほとんどの企業でできていないのが現状です。もうひとつは、世界中に色々なマーケットがある中でグローバルに攻めていくのか、パイは大きくなくても、しっかりと国内のお客さんを取り込んでいくのか、戦略の基軸が2つに分かれてきている時期だとも感じています。例えば、日本の電化製品は、技術的には世界規模で大きくなれそうな流れにありましたが、アップルやサムソンにいつの間にか 追い越されてしまったのは、商品ブランドの基軸をはっきりさせていなかったことに原因があるのではないかと思っています。ファッション業界はアイテムが同じなので分かりづらいですが、現状としては似たようなことが起きています。シャネルとは、バレンシアガとは何のブランドなのか明快であるほど強く、それがないと時代とともに淘汰されていくと思います」

 

—2008年にブームが巻き起こり、黒船襲来と称されたファストファッションですが、日本にどのような影響を与えたと思いますか?

 「国内でなんとなくファストファッションをまねたブランドが増えたことに問題があると感じています。成熟している先進国の人たちは着るものに困っていないので、ずっと安い服が売れるような状況は続かないと思います。お客さんはもっと賢く、今や原価率の違いまで見分け、価格というよりもお金を出す価値があるかどうかを基準に買い物をしています。そういった意味でも、企業は価格を落とすことばかり考えず、ブランドの価値を上げる方向で戦略を立てていってほしいです。本来、国内のアパレルがやるべきことはたくさんあるのに、ブランドの個性が弱くなってしまったように思います。消費者目線で見たとき、ラグジュアリーとファストファッション以外に何のブランドがあるのか中間層が欠落している印象を受けます。ユナイテッドアローズやビームスのようなセレクトショップが頑張っていますが、あくまで小売ブランドであり、大手アパレルで名前が立つようなブランドが非常に少ないと思います。私は、ユニクロ好きというわけではありませんが、彼らは素晴らしいマーケティングブランドを浸透させ、明快なポジションを確立しました。バブルがはじけて以降、この間に大手アパレルの顔が見えづらくなってしまったことは、ファッション好きの私としてはとても残念なことです。それは、くしくも百貨店の売り上げ不信の声がよく聞こえてくるのともつながっています」

 

s-162-kawashima-01—ファストファッションの影響だけでなく、郊外型ショッピングモールやアウトレットの台頭で百貨店も生き残りをかけ、再編や改革に着手していますよね。

 「百貨店やそこに入っているアパレルも変わろうと努力をしていますが、残念ながらお客さんには伝わっていません。売り上げを取るために売れ筋を作るのですが、その結果、商品が同一化し、店頭に面白さがなくなり、お客さんの足が遠のくという悪循環に陥っています。百貨店の顔ともいえる入り口に、ラグジュアリーブランドを大きく取り込んだり、最上階にユニクロなど、ある程度売り上げがとれるブランド(企業)を入れ、シャワー効果を狙っているのはよくわかりますが、これではますます個性が失われそうで、もったいないと感じています」

 

—次世代デザイナーが自身の服を継続的に売っていくため、ブランドを作り上げる上で大切なことは何でしょうか。

 「多摩美術大学のテキスタイルでマーケティングの授業を担当しているのですが、カリキュラムの中でビジネスに関することを教えているのは私だけです。あとは全部クリエーションの授業で、ほとんどの学生がビジネスのビの字も知らずに世の中に出ています。デザインとはビジネスですので、お客さんの心をつかみ、商品を売って、次に作る商品の資金を得る仕組みを自分の力で作ることが大切です。私は生徒たちに半年かけてブランディングさせる授業をしています。コンセプトを立て、品ぞろえの計画を練り、ターゲティングを定めて、最後に何を作ってどう売るかプレゼンテーションさせています。びっくりするのは、マーケットに出て消費者の観察もせず、作ることばかりに一生懸命になっている生徒が多いことです。リサーチとまではいわずとも、街に出てショップを見たり、消費者の買い物行動や着こなしを観察することで発見があり、ターゲットも想像できて、作る物が明確になってきます。若いデザイナーには、こういった習慣をつけていってほしいと思います。どんな商品も相手があってのもので、着てもらって初めて生きるのが服です。ただ、作りたいから作るという考えは違います。会社に入ればどんな業種でもコミュニケーションが大切で、自分がやりたいことを言葉にできなければ伝わらず、意見を通そうと思ったら説得力も必要です。若いときからクリエーションとビジネスの両方を鍛え、磨いていける教育面のサポートも重要だと思います」

 

—最後に、川島さんから次世代デザイナーにメッセージをお願いします。

 「この業界の未来を作っていくわけですから、自信をもってあらゆる可能性に挑戦してほしいです。誰も先が読めない時代だからこそ、低空飛行にある日本だけにとどまらず、視野は世界に向けて広くもったほうがいいと思います。最初から大成功なんてありませんし、世の中は99%の失敗と1%の成功で成り立っていると感じています。私自身、多くの失敗を経験しましたが、それでもへこたれないのは強烈な好奇心をもって自分が楽しんで取り組んでいるからだと思います。頑張っていれば、応援してくれる人が現われます。周りから『面白そう』という期待感をもってもらう挑戦を繰り返すことが大切であって、必ずしも面白い結果を出さなくてもいいのです。誰にでも未来は開けています」